雨後の

主に備忘録の予定.

人文・社会科学系研究推進フォーラム(第1回)

12/22大阪大学の主催,京都大学筑波大学の共催で開催された「人文・社会科学系研究推進フォーラム」に参加した。

URA*1の方が,人文・社会科学系の研究支援として何ができるかという問題意識が根底にあると理解しているが,フォーラム自体はURAだけでなく,研究者自身,事務職員で研究支援に関わる人,を巻き込んで,同じ場で議論をしようという趣旨になっている。

参加者名簿によると,約半数がURAの方,残りが研究者と事務職員という割合。プログラムは,前半に基調講演と研究者からの話題提供,後半に「人文・社会科学系研究推進に必要な共通基盤整備とは」をテーマとしたグループディスカッションが設けられた。

 

 

基調講演

基調講演では,文科省学術の基本問題に関する特別委員会(第7期)」主査の西尾先生より,「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」中間報告をもとに,人文・社会学系研究の重要性をどのような文脈で訴えているかという要点の紹介と今後の取り組み内容が話された。

人文・社会科学分野は長期的な視野に基づく研究が多いことから,研究費つまり具体的には運営費交付金を減らさないことが重要と感じておられるようだったが,それは言うても相当困難(ほぼムリ)というニュアンスが感じられた。とにかく,異分野,近接領域との共同研究や,研究動機として社会(=一般)の要請,要求に応じること,などを挙げておられた。

この審議と中間報告については恥ずかしながら把握していなかったので,勉強になった。

話題提供と後半のグループディスカッション

話題提供は3名の先生から。それぞれ,ドイツ近現代史,「分析アジア哲学」(ご自身がこの言葉を提唱されたとのこと),政治行動学(選挙など)という分野のご専門で,一口に人文・社会科学といったときの学問分野の多様性が否応なく明らかとなる。

この先生方のお話を紹介するだけでおそらくディスカッションが1日できるのではないかというほど色んなシチュエーションや研究手法,解決したい・してほしいことなどがたくさん出てきた。

グループディスカッションでは,研究者数名とURA/事務職員数名で構成する6,7名程度のグループに予め分けられており,グループ単位で,研究者の普段の研究活動にインタビューし,研究活動の実態や課題と思っていること,その解決策,を洗い出す手法がとられた。その後,グループ毎に,ディスカッション内容,どういう点が「研究者」「研究支援者」にとって課題と考えられているか,発表を行い,それらを踏まえた全体での簡単な討議というかコメントの出しあいがあった。

 

感想など

研究者の主体的な語りをベースに問題を掘り下げていったため,グループによって,課題の粒度がまちまちであったのが面白かった。総じていくつかの点にまとめることはできるのだけれど,それをまとめることがここでいいことなのかはよくわからない*2。出てきた課題の一つ一つに具体的に寄り添うことと,大きな課題として機関として解決することとの両面のアプローチが必要だろうと思うが,具体的にはもう少しディスカッションを続け,深めていく必要があるだろう。

これまでその分野の院生に教育を兼ねてヘルプさせていた部分が薄くなりつつあって,そこをURAなり他の誰かなりに担保させるという図式を念頭に置かれているのではないかと思われるような発言もあったが,ただ事態はそれほど単純(?)なことではないのではという気がする。先ほどの課題の粒度と同じ話になるが,学術研究全体の推進を基調としていることには変わりがないとしても,どこに重きを置くのかで具体的な支援の内容は変わってくる。そして,それのどこをURAが,事務職員が,図書館がサポートするか。

また,「人文・社会科学系研究推進に必要な共通基盤」部分として研究者が解決してほしいと感じている部分,URA/研究支援者が解決したいと感じて いる部分にずれが見受けられたのも興味深かった。ずれているから不要というわけではなく,何が「研究推進に必要な共通基盤」なのか,という対話に持ち込ん でいかなければならない。これを,研究者とともに行うというのが大きなポイントになる気がした。

 

最後に阪大のURAのボス,池田雅夫先生が流石に素晴らしく表現しておられた。

URAは研究者だけの支援をするものではない。研究者,事務職員,執行部,これらのそれぞれ手の届かない部分のサポートを行っていければよい*3

 

今回は,テーマの大小も含めてディスカッションをしてみた,という印象。どこに焦点を当てると「人文・社会科学系」に特化した支援になるのか…それも含めて次回以降の課題なのかもしれない。フォーラムは継続して開催される予定とのこと。できれば引き続き参加していきたい*4

 

なお,本フォーラムの報告記事は次号(1月末発行?)の大阪大学URAメールマガジンにも掲載予定とのこと。

 

 

 

*1:University Research Administratorの略

*2:一応記しておくと,研究(教育)以外のことに時間を割くべきことが多い,会計規則が複雑,研究に集中するためのまとまった時間が取れない,研究助成金のしばりが厳しい,研究成果の評価のあり方についてなど。人文・社会科学特有の話に感じられたのは,最近すすめられている異分野・学際領域での共同研究などにおいて,分野のマナーの違いの方が大きく出てしまい,メリットの明確化を先にしておかなければならないという話など。

更に蛇足だが,これらは,先日のSPARC Japan セミナー「「オープン世代」のScience」でアカデミアの置かれた状況として語られた内容と共通する部分が多かったように感じる。詳しくはセミナー報告であるSPARC Japan ニュースレター No.24をご参照ください(宣伝)

*3:この会の後,家で話題にしたときの会話。図書館は,良くも悪くも,物理的な場所,資料というハード面のリソースにある意味助けられているという側面があるだろう。しかし,物理的なものに胡坐をかいていては形骸化の一途をたどっていくのみで,やはりニッチな部分に乗り出していくことも含め,持ち味をうまく活かしたグランドデザインを描いていかなければならない。特に今は,削られていく一方でそこを補填することもできなくなっている。機関の中であるいは横断的にうまく手をつなぐヒントが,今後このフォーラムでもらえると嬉しい。

*4:個人的には,研究成果のpublish部分について興味のあるところ。