雨後の

主に備忘録の予定.

第16回図書館総合展 フォーラムその1(メモ)

2か月近くたってからのメモ。フォーラムは11/7に3つ参加した。その1つ目。

学術情報流通の倫理的側面:出版倫理・研究倫理・教育倫理・図書館倫理
─「STAP細胞問題は何がどこまで問題なのか」あたりから始まる話─

毎年恒例のセッションは「学術情報流通の動向」だが,今年は「倫理」をテーマにしたフォーラムがひとつあった。土屋先生の「本業」セッション(とご自身でコメント)。


学術情報流通の倫理的側面:出版倫理・研究倫理・教育倫理・図書館倫理 - YouTube

 

「倫理(ethics)」とは何か,について,学術,研究,高等教育の側面から検討するという趣旨。以下,いくつかの話題メモ。

 

 

研究者にとって日々直面する事実としての任期問題,成果としての「論文」。「研究」≒「論文」,更にその意味合いの変容*1

撤回論文はオンラインになって簡単になったという話,人文社会科学系でも特に実験系ではよく起こっている剽窃問題

「倫理」は,法律,慣習,宗教,道徳,モラルなどと異なり,守らない事によってその集団から排除される等の制裁はない。即ち何らかの単位によって自律的に守るしかない。

自律して孤立した状態で研究不正を行わずにいる事は難しい。研究者は孤立している。相互チェックが必要な状況。誰かがだめだと言ってあげること,どういうときにどこまでそれを言うか,即ち集団としてのコード化(倫理綱領)が必要。

社会的説明責任を果たしながら,自律的な活動・学問の自由を内部で担保したいはずの高等教育機関,その一方で研究者の側から,研究倫理を自律的に守ることは無理なので法律化してほしいという声もあるという話,この「危機的状況」について。

research, publication, education, library + 「ethics」

職能倫理(professional ethics)

出版業界はきちんとできあがっているひとつのモデルとなるのでは*2

学習については,アクティブ・ラーニングによって主体が学生となることによって,これまで教授していた者のふるまいが学習者の側から判断されるようになること,学習者の側のプライバシー・自己情報コントロールをどのように設計するべきか…(ここうろ覚え)

 

一連の話題を伺いながら漠然と考えたこと

研究が膨大な量になり,テキストからデータ中心になり,すべてを研究者自身が保持する必要がなくなり,様々なアウトソースが行われ外部に記憶・記録させ共有していく部分が増える中で,なにをどこまで研究者(グループ)固有の「研究成果」と言えるのだろうか。

それまでの研究の成果を踏まえて何かを追加した,というのがおそらく研究の基本的な意義だと思うが,「それまでの研究の成果」を網羅的に踏まえ,その意味を判断することはもうできなくなりつつあるのでは。そうすると必然的に,「客観的な研究の成果」として扱われてきた「論文」の価値は低下せざるを得ない。

 

研究倫理を守る(研究不正を行わない)ということと,その論文の質や意義(?)を担保するということは別のことで(あるにも拘らず)*3,論文という形で求められている業績が本当に業績といえるのかどうかだんだんわからなくなってしまうという矛盾が生じつつあるのではないか。

 

なんというか不思議なこじれた輪の中を回っているような気がしました。

 

*1:最初のbig science は1950-60年代,軍事研究関係。2000年頃からバイオ系の研究でNIHに莫大な予算がつき,研究にはかなりの資金を必要とする傾向など,「現代版 big science」の様相を呈する。この過程で公的助成は審査の透明性を担保するために成果を「論文」という形で求め,「論文」は量的→質的→「impact」という意味合いの変容を遂げる。助成金を取るには「impactのある論文」でなければならないという傾向,「これはすごい」とみんなが唸る画像,データ…。この流れを考えると例の研究不正はまさに象徴的

*2:

Committee on Publication Ethics: COPE | Raising the Quality of Academic Journals

*3:フォーラムの前半に会場にお題が出ました。

あなたは任期付きの教員で,テニュアを取るのにあと1本国際雑誌に論文を掲載しなければいけない。査読の随分早そうな国際誌があったのでこれに投稿しようと思ったが,いわゆるハゲタカ出版社の雑誌であることが分かった。あなたはこの雑誌に投稿しますか?というもの。

フォーラムの最後に会場から回答を募ったが,投稿しないという方の意見は,やはりきちんと査読もしていないいかがわしい雑誌に載せるのはいかがなものかということ。投稿するという方の意見は,少なくともこの問題に関しては剽窃や改竄,無断コピーはしていないので,研究不正にはならないというもの(掲載した結果として大学がそれを業績とみるかはまた別の問題なのでリスクはあるが)。