研究公正:Research Integrity(広義)*1
もともとは,生命科学を中心とした「研究不正行為:Research Misconduct」の増加への問題意識。
研究活動における特定不正行為:FFP(捏造・改竄・盗用の頭文字)の摘発と防止が主眼→研究公正(狭義):懲戒・行政的処分対象となる*2
90年代ころ,研究行為からの逸脱によるものが顕著化*3
好ましくない研究行為:QRP(Questionable Research Practice)データ過剰解釈,過剰に装飾された研究計画(提案)や報告,オーサーシップの不正,二重投稿など
→これらを越えて:責任ある研究行為(RCR:Responsible Conduct of Research)の推進という観点
2010.9「研究公正(Research Integrity)におけるシンガポール宣言」*4
4原則:誠実さ(Honesty), 説明責任(Accountability), 職業的礼儀と公正(Professional Courtesy and Fairness), よき管理責任(Good Stewardship)
摘発するというよりは倫理的な態度で科学研究コミュニティの質の向上を目指すべきであるという姿勢。
新たな要因と環境変化に伴う複雑化
・研究活動のオープン化・国際化
・AIや生命科学技術・宇宙・海洋等の新興科学技術への投資
・機微技術・機微情報の流出,先端/新興科学技術が潜在的に持つ用途の多様性・両義性(Dual Use)
日本における「研究インテグリティ」という概念の打ち出し
研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について(令和3年(2021年)4月27日 統合イノベーション戦略推進会議決定)
https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/integrity_housin.pdf
「 本対応方針において、研究インテグリティは、研究の国際化やオープン化に伴う新たなリスクに対して新たに確保が求められる、研究の健全性・公正性を意味する。」
「国際的に利益相反・責務相反、科学技術情報の流出等の問題が顕在化しつつある状況を踏まえ、我が国の研究者や研究組織等が守るべき規範(研究インテグリティ)」*5
研究上の流出などの問題を防ぐ観点を含めつつ,まず研究者や機関,FAの姿勢・規範を規定している。
"これら「research integrity」の中でも,安全保障上の要請に対応した研究活動における「integrity」について「研究インテグリティ」として"
"「研究公正性」がアカデミックコミュニティーにおける自律的な取り組みとして捉えられてきたことに対し,「研究インテグリティ」はアカデミックコミュニティーが外部からの要請にこたえざるを得ない状況に置かれることとなったことを意味している。"*6
いずれにしても国家的なセキュリティの概念までは含まれていないように見える。
研究セキュリティ(Research Security)
(国内ではまだ「研究セキュリティ」という語の使用はあまりみられない)
「透明性を高め、潜在的な利益相反(COI)や責務相反(COC)を開示し、リスクを管理することによって研究インテグリティを強化することにより、研究セキュリティは保護される。研究セキュリティ、すなわち外国の国家や非国家による研究への干渉を防止することは研究インテグリティの強化につながる。」*7
国や研究機関,FAを含む全体の枠組みとしてSecurity(国家間関係や政治・社会状況も踏まえたうえで設定する)を考えるという方向になってきてそう。たぶん大きな意味でのResearch Integrity を丁寧にする,だけで防げるものではなく,国家や上の方のレベルで何らかの規制や規定等も場合によっては必要となる。
→次回に続く予定。(APRIN特別講演)
関連する概念・ガイドライン等
利益相反:COI(Conflict of Interest)*8 *9 *10
外部との経済的な利害関係によって,公的研究で必要な公正・適正な判断が妨げられる(またはその恐れがあると第三者に判断される)
データの改竄,特定企業の優遇研究(の継続)
広義の利益相反→狭義の利益相反と「責務相反(兼業等によって本来業務が十分に果たせない状態)」
狭義の利益相反→個人として/組織として
責務相反:COC(Conflict of Commitment)
COIをより倫理的な側面から自律的にとらえなおしている?
*1:「見解 研究活動のオープン化,国際化が進む中での科学者コミュニティの対応 -研究インテグリティの観点から-」
令和5年(2023年)9月21日 日本学術会議 科学者委員会学術体制分科会
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-k230925.pdf
*2:中村征樹, 研究不正への対応を超えて : リサーチ・インテグリティ・アプローチとその含意, メタフュシカ, 2011, 42巻, p.31-46
https://doi.org/10.18910/23321
*3: たとえば,山崎 茂明, 科学の不正行為への生態学的アプローチ(<特集> : 科学情報の倫理), 情報の科学と技術, 2001, 51 巻, 12 号, p. 602-608
https://doi.org/10.18919/jkg.51.12_602
*4:
日本語訳:日本学術振興会
https://www.jsps.go.jp/file/storage/general/j-kousei/data/singapore_statement_JP.pdf
研究インテグリティに関する検討 - 科学技術・イノベーション - 内閣府
ここでは「研究インテグリティ(Research Integrity)」と表現されているが,そもそもオープン化・国際化における国際的な研究活動を踏まえたものに対応して,Research Integrityの語の概念が拡張しているとみるのが妥当と考えられる
*6:遠藤 悟, 特集に寄せて:安全保障上の要請の下における研究インテグリティの新たな展開, 研究 技術 計画, 2023, 38 巻, 1 号, p. 2-5.
https://doi.org/10.20801/jsrpim.38.1_2
この号の特集自体が「研究インテグリティの新たな展開:安全保障上の要請と科学研究活動における大学の自律性」となっている
*7:日本語仮訳:グローバルな研究エコシステムにおけるインテグリティとセキュリティ OECD科学技術産業ポリシーペーパー(130号)p.12 図2.1
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2022/XR/CRDS-FY2022-XR-01.pdf
*8:厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000152586.pdf
*9:厚労科研とAMEDは利益相反マネジメントが義務付けられている。大学・研究機関単位でマネジメントポリシーを設けているところ多数
*10:論文における開示内容の例(主にICMJE)COIの書き方 | Medical Translation Service (MTS)