雨後の

主に備忘録の予定.

Research Security の現状(米国)APRIN2023特別講演のメモを中心に

Research Security*1 

 

こちらに参加した。

www.aprin.or.jp

 

特別講演でアメリカのResearch Security をめぐる最新の状況の話があった*2

"Ethical Conundrums of Current U.S. Funding Agency Research Security Efforts" (米国FAが抱える研究セキュリティの対策に関する難題)

Staty Pritt 氏

 

全体については脚注に回した情報源を踏まえつつ,以下,講演中の印象的な話題についてメモ。

 

 

2015年頃から,国内で研究資金を得つつ,海外でも研究資金を得て研究を(国内には非開示で)行っている事例の存在が認識されていた。

2018年 非開示での外国との研究協力つながりが存在している現状についてNIHや政府系FAなどが懸念しているということを,NIHが表明*3*4

このころは「Foreign Influence」という語がつかわれていたそう。国内の研究者が申告・開示せずに海外との研究協力を行うことによって知的財産や様々な情報が海外に流出するという視点。

これが(2023年頃か?未確認)「Research Security」という語に置き換わった,とのこと。

2021年1月 トランプ政権の終わりにNSPM-33 (国家安全保障大統領覚書第33号)サイン,バイデン政権に引き継がれ実施

2023年3月,Research Security Program Requirements Draft 発表

→各機関は「ここを守れば大丈夫」という明確なガイドラインを期待していたが,そうではなかった,とのこと。理由?として,Ethical な点は機関によって異なる,あるいは具体的な要件として挙げにくいと。倫理的な論点は現在も議論継続中。

いずれにしてもプログラムの最終版がまだ出ていない。そのためにFAでも,各機関でも複数の見解や混乱が生じているとのこと。

懸念事項としては,

・国家安全保障と知財の流出を事前に防ごうとするあまり,共同研究の機会を減らしてしまっているのではないか

・様々な制限や要件の厳格化をもたらすことが研究者の学問の自由や自律性を損ねるのではないか

という点で,これらはアカデミックコミュニティを交えた議論の中で積極的に表明はされているとのこと(注2論文も参照)。

規制をする際に,リスクベース(特定の国や分野を高リスクとみなす)か,国を考慮しないかという観点について言及されていた。前者はわかりやすいが様々な先入観やバイアスを生む危険性がある。NSFなどは後者の姿勢をとっている*5

多くの研究機関はResearch Security Office を設置しているが,COI Office, Risk Control Office など,(設置された時期によって?)様々な名称になっており,つまりこの数年で重視する観点や用語が目まぐるしく変わっていることを示している。

 

COC (Conflict of Commitment/責務相反) 

A New Paradigmであり,FAは最近こちらの方を重視しているそう。

COI(利益相反)は,受けている資金に関係する研究活動や現在就いている職務の範囲内に限った話だが

COCは,普段の職務の範囲外で何をしているかも含む。本来職務外の活動が、本来の職務。責任を遂行する上で問題となる、妨げる場合を指す。
"activity based not necessarily financially based"とのこと。

 

さらに今は主要な観点が"Export Control & Cybersecurity"に移っているという話も。

どういった技術なら国外に出してよいか,いけないか。自分自身のコンピュータのセキュリティなど。

 

とにかく"Both OPEN and SECURE"のむつかしさでまだまだ議論すべき点がたくさんあるということ。この先もいろいろ変わっていくかもしれない。*6

 

*1:米国では以下の定義が一般に用いられている模様:

"Research security is safeguarding the research enterprise against behaviors aimed at misappropriating R&D to the detriment of national or economic security, related violations of research integrity, and foreign government interference".

これは米国国家科学技術委員会によるNSPM-33のガイドラインに記載のあるもの。

NSTC(the National Science and Technology Council), Subcommittee on Research Security, Joint Committee on the Research Environment, "Guidance for Implementing National Security Presidential Memorandum 33 (NSPM-33)" On National Security Strategy for United States Government-Supported Research and Development, 2022, https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/01/010422-NSPM-33-Implementation-Guidance.pdf.

APRIN特別講演では,「昨年10月のSRA Internationalで,NSFのプレゼンにこの定義とResearch Security を図示したものがあった」と紹介された。

*2:アメリカの2022年までの状況については以下が詳しい。

遠藤 悟, 新たな研究インテグリティの要請とアカデミックコミュニティーの対応:米国の事例, 研究 技術 計画, 2023, 38 巻, 1 号, p. 69-85, https://doi.org/10.20801/jsrpim.38.1_69

「研究 技術 計画」の38(1)自体の特集が研究インテグリティ(安全保障関連)となっており,その他の論文とあわせて世界と国内の状況が大体わかる。

*3:通称"Dear Colleague" letter, 2018年8月20日。この資料の付録についている。

https://acd.od.nih.gov/documents/presentations/12132018ForeignInfluences_report.pdf

*4:NSFも2019年に"Dear Colleague Letter: Research Protection"という通知を出している。ここでJASONグループへの調査依頼中であることの報告や,Pritt氏も述べていた,NSF職員等は外国の人材採用プログラムには応募できない旨の通知がされている。

Dear Colleague Letter: Research Protection (nsf19200) | NSF - National Science Foundation

*5:講演の中で,研究機関はリスクベースの具体的な言及を希望しているともあったので,国内で議論になっているのかもしれない。例えば連邦政府系FAでは中国・ロシア・北朝鮮・イランの4か国をリスクの高い国として挙げているが,これらの国の研究者との共同研究についての制限等は各機関の判断に任されているとのこと。詳細未確認。

なおこれらの必須要件が定められたとして,それへの対応・適応は各機関で行い,政府からの特段の予算措置は(現時点では)ないとのこと。各機関が自力で費用を捻出する必要がある。

*6:ちょっと論点がずれるかもしれないが,米国愛国法がでたときに憲法修正第一条に抵触すると訴えられていたのを思い出した。アカデミアにおける学問の自由的なものは,アカデミアの自治とも関係しているし,出発点として研究者の「研究を行う」「そのための資金や資源を得る」という行動と直結しているため,アカデミア内部(だけ?)で語られることが多いのだろうが,最終的にはやっぱりPublic Access の観点につながっていくものでもあるだろうと思う。