雨後の

主に備忘録の予定.

コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)への勝手なエール

越境する力(教養):これからの大学における高度教養教育の可能性と課題(コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)10周年記念ラウンドテーブル)」にお邪魔してきた。

コミュニケーション・デザイン・センター(CSCD)は2005年,鷲田総長のときにつくられ,文字通り「コミュニケーション」をテーマとし,実践や臨床の場を通じて,対話の形成ということがどのように行われるか,どのように行っていくべきか,に取り組んでいるセンターである。

CSCDのウェブサイトによると,専門やある程度の自らの文脈をもつもの同士がその立場等の違いを越えて「協働」する力,の重要性は現代社会において非常に高くなっている。教育・研究の場においてそれらを養うことを「高度教養教育」と名付けて取り組む組織は各大学でも最近急増しているが,CSCDはそれらに先鞭をつける形で立ち上がった,のだという。

 ラウンドテーブルは,第一部にお二方からの基調講演,第二部はCSCDのスタッフや卒業生による,第三部ではさらにフロアからの意見も交えたディスカッションという構成であった。

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日常の業務量と,何を拾うか,など

1年少し前まで,医学系の図書館でILL受付業務をする係にいました。

業界ではよく知られていますが,全国で最もILL複写受付件数の多い館です*1

受付件数が多いと言っても,ピークはとうに過ぎてはいます。NACSIS-ILLの件数だけ見ても,この10年間,複写受付件数の最も多い館では毎年2000件強のペースで減り続けていることはわかります。複写受付件数上位機関のうち大半が医歯薬看護系であったとしても,文献の入手方法としてILLの優先順位は低くなっているとみて間違いはありません*2

ただ,これらの統計から,

業務量は減っている

とは一概に言えないのではないか,というのが3年間の経験のなんとなくの印象です。

 

可視化されない業務への対応

例えば,統計にあらわれる件数は年間を通じたもので,時期による件数の差はかなりあります。均せば1日あたりの件数は大したことはありません。

また例えば,受付件数の統計値には謝絶(何らかの理由で文献提供に至らなかったもの)件数は含まれていません。

統計の取り方がそうなっているので当然なのですが,しかし,

  • 文献が欲しい人は1週間後に欲しいのではなくて今すぐほしい。
  • 謝絶の処理までにかかる作業量は文献が提供されたものと同一であり,しかも謝絶件数は私の経験している間はどちらかというと増加傾向にあった*3
  • 問い合わせの中にはイレギュラーなものや,小規模機関や一人職場からの依頼で検索作業等の過程で躓いているものもある。

という状況でもあるのです。

これらのリクエストに,丁寧に対応すればするほど,可視化されない業務量は増えていきます。そんなの当り前だろうという声が聞こえてきそうですが,ILL受付では,この部分にどれだけの手間をかけられるかというところに,大規模館としての役割があるのではとも感じた3年間でした。そうでなければ,例外部分はすべて切り捨てて,定型にはまる分だけはいていけばよいのです。それはどこの館でもできることです。

ILL業務担当者における知識や技能の差,共通基盤の喪失,そういったことも含め,もう少し大きなところで,業界全体においてILL自体の枠組みの立て直しということも含めて考えることが一番やるべきこと,特に分野内での議論の必要性も感じました。

が,一方では,この館は同大学の図書館としては一分館扱いで,統計の数値を見る限りでは

業務量が減っている

としかあらわされず,

人手は減らせる

という図式が容易に成り立ってしまう部分もあります。

 

全体での議論を動かすことにまだしばらくの時間がかかりそうなら,単館として,この,可視化されない業務量について,何とか拾い上げることはできないのだろうかと考えていました。しかし,細かい統計項目を設定してみることはできても,自館のみの業務(ここでは作業もしくは処理と置き換えられる)をこなすことが目的とされている場合,効率化で人員削減のご時世,切り捨てられる部分はどんどん増えていきます。これが,3年間で一番辛く,結局どういう手も打つことのできなかった後悔の点でした。

効率化というならば,もっと大きなところで効率化を図ることは恐らく可能でしょう。その部分を放置して,単なる作業に置き換えて削減された人員による個人的な善意や努力や根性ですべてを処理することには,もうだいぶ前から限界が見えているのではないかと思うこのごろです。

 

 

*1:たとえば以下の統計。NACSIS-ILLシステムを通り,文献の送受が行われたものの統計である。

www.nii.ac.jp

*2:自館所蔵/アクセスのない資料の入手手段について,たとえば,SCREAL2011調査では「ILLを通じて入手する」という回答が平均で7割程度で最も多いが,同報告書は,この選択肢への回答が自然科学系院生で低いこと,全体でも2007年調査と比べると減少していること,その一方で,「インターネット上の機関リポジトリや著者のサイトを探して入手する」という選択肢への回答が大幅に増えていることを指摘している。

SCREAL調査報告書:学術情報の取得動向と電子ジャーナルの利用度に関する調査. (電子ジャーナル等の利用動向調査2011)p.24.「Q19 必要な論文が電子ジャーナルまたは印刷体の雑誌で利用できないときにどうしていますか?当てはまるものすべてを選んでください。」

*3:CAの文献紹介で,オープンアクセス論文に対する複写依頼の増加というものがあった(オープンアクセス文献に対する複写依頼の増加(文献紹介) | カレントアウェアネス・ポータル)。オープンアクセスが理由となる謝絶件数の増加は,当館でも見られた。学内依頼者→図書館依頼担当者が気づいて学内依頼者に謝絶するか,図書館依頼担当者が気づかず他館に依頼→他館(受付館)が謝絶するかの違い。ここが素通りされるとそのまま複写物を提供ということもあるのかもしれない。

CA-Eを書かせていただきました

メモ的に。

CA-Eにとお声掛けいただき,COAR(オープンアクセスリポジトリ連合)が2月に公表したリポジトリの相互運用性(interoperability)に関するロードマップとその周辺について,記事を書きました。

E1666 - リポジトリの相互運用性:研究情報とオープンアクセスを繋ぐ | カレントアウェアネス・ポータル

 

COARには発足当時(2009年)から,単体のリポジトリだけではなくリポジトリ同士が互いにネットワークを組むことでe-infrastructureができあがる,という主張をもっていて*1,当初から相互運用性のWGもあり,WGでレポートも出して,そうこうしているうちに研究業績管理情報*2周辺が一層賑わってきて,結果的に「周辺のいろんなもの」とつながるための相互運用性ロードマップ,がいいタイミングで出せてよかったよかった,ということをもう少しカジュアルに書こうと思ったのだけど,どうもカジュアルになりませんでした。相変わらず書き込みすぎて,黒い(画/紙面が)。

ちなみにCOARの今年の年次集会は北米SPARCと共同開催の模様。4/15-16,ポルトガルのミーニョ大学。テーマは教育から研究まで,多岐に渡っているようです。

COAR » Programme

 


執筆と校正やりとり

執筆のスケジュールについても軽くメモ。

依頼をいただいてから執筆の締切までが1ヶ月,そのあと2週間半ほどの間に編集担当さんがチェックしてやり取りが2回ほど。

執筆者は最初に時間をだいぶいただくわけだけど,この後読み込んでチェックして修正,をこの短期間でやる編集の方には本当に頭が下がるなあと思いました。

Eは同時に複数の記事を公開するし,今回のように元ドキュメントがある場合はそれもチェックしないといけないし,それらが自分の興味関心や専門を問わずやってくるわけです。

それに加えてがっつりしたCA,まめなニュース発信のCA-R。

もちろん,執筆テーマはあらかじめ決められているとはいえ,すごいお仕事…


短い期間にもかかわらず,とても丁寧に見ていただいて,大変勉強になりました。ありがとうございました。m(_ _)mm(_ _)m

 

 

 

*1:drfic2009でのアリシアの講演がそういう内容で,個人的にはインパクトがあった。

A Data infrastructure for a Data oriented Research and Education / Alicia Lopez Medina (COAR/UNED)

*2:このへんの語彙,CA-Eでは「研究情報」としたけれど,微妙にまだ統一されていない感があって迷った。結局Research Information を直訳したけど(それで使われているのも結構あるけど)どうなんでしょう。