1年少し前まで,医学系の図書館でILL受付業務をする係にいました。
業界ではよく知られていますが,全国で最もILL複写受付件数の多い館です*1。
受付件数が多いと言っても,ピークはとうに過ぎてはいます。NACSIS-ILLの件数だけ見ても,この10年間,複写受付件数の最も多い館では毎年2000件強のペースで減り続けていることはわかります。複写受付件数上位機関のうち大半が医歯薬看護系であったとしても,文献の入手方法としてILLの優先順位は低くなっているとみて間違いはありません*2。
ただ,これらの統計から,
業務量は減っている
とは一概に言えないのではないか,というのが3年間の経験のなんとなくの印象です。
可視化されない業務への対応
例えば,統計にあらわれる件数は年間を通じたもので,時期による件数の差はかなりあります。均せば1日あたりの件数は大したことはありません。
また例えば,受付件数の統計値には謝絶(何らかの理由で文献提供に至らなかったもの)件数は含まれていません。
統計の取り方がそうなっているので当然なのですが,しかし,
- 文献が欲しい人は1週間後に欲しいのではなくて今すぐほしい。
- 謝絶の処理までにかかる作業量は文献が提供されたものと同一であり,しかも謝絶件数は私の経験している間はどちらかというと増加傾向にあった*3。
- 問い合わせの中にはイレギュラーなものや,小規模機関や一人職場からの依頼で検索作業等の過程で躓いているものもある。
という状況でもあるのです。
これらのリクエストに,丁寧に対応すればするほど,可視化されない業務量は増えていきます。そんなの当り前だろうという声が聞こえてきそうですが,ILL受付では,この部分にどれだけの手間をかけられるかというところに,大規模館としての役割があるのではとも感じた3年間でした。そうでなければ,例外部分はすべて切り捨てて,定型にはまる分だけはいていけばよいのです。それはどこの館でもできることです。
ILL業務担当者における知識や技能の差,共通基盤の喪失,そういったことも含め,もう少し大きなところで,業界全体においてILL自体の枠組みの立て直しということも含めて考えることが一番やるべきこと,特に分野内での議論の必要性も感じました。
が,一方では,この館は同大学の図書館としては一分館扱いで,統計の数値を見る限りでは
業務量が減っている
としかあらわされず,
=人手は減らせる
という図式が容易に成り立ってしまう部分もあります。
全体での議論を動かすことにまだしばらくの時間がかかりそうなら,単館として,この,可視化されない業務量について,何とか拾い上げることはできないのだろうかと考えていました。しかし,細かい統計項目を設定してみることはできても,自館のみの業務(ここでは作業もしくは処理と置き換えられる)をこなすことが目的とされている場合,効率化で人員削減のご時世,切り捨てられる部分はどんどん増えていきます。これが,3年間で一番辛く,結局どういう手も打つことのできなかった後悔の点でした。
効率化というならば,もっと大きなところで効率化を図ることは恐らく可能でしょう。その部分を放置して,単なる作業に置き換えて削減された人員による個人的な善意や努力や根性ですべてを処理することには,もうだいぶ前から限界が見えているのではないかと思うこのごろです。